遭遇篇

「先輩どこにいるんだろうね?」
「え〜と、お姉ちゃんのメールだとこの辺なんだよね」
 あたし、本田麻衣は友達の柊真冬ちゃんとふたりでプールの女子更衣室をさまよっていた。


 昨日の夜突然、あたしは同じ中学の三年生のお姉ちゃんに今日面白い事があるから、ここのプールに友達とくるように言われた。
 別に断っても良かったんだけど、あたしが大好きな千尋先輩も来るって言うので何人かに連絡を取ってみたものの、昨日の今日じゃみんな用があってこれたのは真冬ちゃん一人。
 家で真冬ちゃんとふたりで待っていると30分くらい前におねえちゃんから連絡があり、更衣室のこの場所までやってきた。
「あれそうじゃない?」
 真冬ちゃんが指差す先には、お姉ちゃんと……誰だろう? 背の低い子と手を繋いでる。その子の反対は綾先輩? 遠くてよくわからないな。
「行ってみようか」
「そうだね」
 ここにいたって仕方ない。真冬ちゃんの言葉に従って、あたしはお姉ちゃんの方に向かって歩いた。
「お姉ちゃん何してるのしてるの?」
 あたしが声をかけると、お姉ちゃん、それとやっぱり綾先輩だ!
「あれ、麻衣ちゃんに真冬ちゃんじゃん」
 お姉ちゃんの後ろには千尋先輩もいた。
千尋先輩っ! それに綾先輩も!」
 あたしは嬉しくなって思わず声を上げる。
 あたしは前から、優しくて、勉強もスポーツも出来て、お姉ちゃんに泣かされたときはかばってくれたりしてた千尋先輩、ちーねーちゃんのことが大好きだった。
「……!?」
 あれ? お姉ちゃんと手を繋いでるのって…… 我妻先輩?
 あの、サッカー部でちっちゃくって、うちのクラスでも結構人気がある我妻優先輩じゃないの? ってなんで? 女子更衣室に我妻先輩が? それもなんで裸で?
 そして思わずあたしの視線は我妻先輩の股間に行ってしまう。
 するとそこに見えたのは……!!
 ???
 さっきそこでママに着替えさせてもらっていた年長さんぐらいの男の子と同じ感じのおちんちんだった。
 毛も一本も生えていなくて、偶然見ちゃったクラスの男子と比べても半分の大きさもないような子供のおちんちん。
 それが背が低いとはいえ中学三年生の我妻先輩についてる?
 他人の空似? ドッペルゲンガー
 あたしの頭の中は、お姉ちゃんたちと会話を交わしながらも、はてなマークが飛び交っていた。
「お姉ちゃんこの人……?」
「この子はわたしん家の近所に住んでる優君って言うの、小五なんだ。ほら、優君お姉ちゃんたちに挨拶」
 あたしの言葉が終わった瞬間に千尋先輩が裸の男の子を紹介してきた。
 優君? 千尋先輩の近所?
 確か我妻「優」先輩は千尋先輩の家の隣で……そうか! もしかして、お姉ちゃんが言ってた面白い事って……!
「こんにちは、我妻優です。お、おねえちゃん、よ、よろしくおねがいします……」
 そう言いながらその子は頭をぺこりと下げた。
 我妻優……やっぱりそうだ、我妻優先輩なんだ。
 あたしは横目で真冬ちゃんを見ると、彼女もこっちに目で合図を送ってきた。当然彼女も我妻先輩のことを知っている。
 いや、それだけじゃなくて我妻先輩とは少なからぬ因縁があるのだ。
「ふ〜ん、小学五年生の優君ねぇ……。優君は五年生にもなって女子更衣室で着替えるんだ?」
 あたしはわざと意地悪なことを言いながら、我妻先輩、いや、「優君」の中三とは思えない小ささのおちんちんをじろじろ見てやると、両手をつながれていて隠すことも出来ない先輩は恥ずかしそうにうつむくだけだ。
 すると突然千尋先輩が彼の前にしゃがむとおちんちんを摘まむ、そして一瞬「優君」の顔を見るとあたしに向かってこう言った。
「麻衣ちゃん! 見てみなよこのおちんちん。
 こんな毛も生えてない赤ちゃんみたいなおちんちんなんだよ? 男なんかじゃなくてまだまだ子供、女子更衣室でわたし達が着替えさせてあげるのが、当然だと思うんだけど?」
 ひどっ! 中学三年生を捕まえて赤ちゃんみたいなおちんちんって!
 でも、千尋先輩に文字通りおちんちんをつままれて、顔を真っ赤にして涙目の「優君」を見ていると、本当に中学三年生には見れないし、先輩やお姉ちゃんたちがいじめたくなる気持ちもわかる。
 あたしはそんな事を考えながら、おちんちんを凝視するのは恥ずかしいし、でも見たいしって気持ちで、「優君」の顔とおちんちんを交互に見比べてしまっていた。
「確かに小さいです」
 突然横から口をはさんできたのは、今まであまり喋らなかった真冬ちゃん。
「わたし、小三の弟がいて一緒にお風呂入ったりするんですけど、その弟の方がちょっと大きいと思います」
「……!!!」
 真冬ちゃんの言葉に「優君」の表情が確かに代わった。
 今まで恥ずかしそうにしているだけなのに、悔しそうに歯を食いしばっているのがわかる。
 そりゃそうだ、いくらなんでも中三にもなって小三とおちんちんの大きさを比べられたら悔しいだろう。
「へえ〜、小学三年生より小さいんだぁ」
 綾先輩はそう言いながら「優君」の耳元へ口近づけると小さな声でささやいた。
「ホントは中三なのにネ」
 「優君」はあたしたちには聞こえていないと思っているかもしれないけれど、その声はあたしもはっきり聞こえた。たぶん真冬ちゃんにも。
 だって真冬ちゃんの顔をチラッと見たときにすっごくエッチな顔していた。
 そして、千尋先輩は「優君」のおちんちんを指ではじきながらこういった。
「小三より小さいんじゃ、小二くらいかな? 小二だったら女子更衣室入っても問題ないから、小二のおちんちんの優君も問題なし!」
 その時の「優君」の顔はものすごく悔しそうな、ものすごく恥ずかしそうな複雑な表情をしていた。
 だけどね、小三よりもちっちゃいからって小二とは限らないんだよ? 幼稚園児だって小三よりもちっちゃいんだからね!
 あたしはさっきみた年長さんぐらいの男の子のおちんちんの記憶と、「優君」のおちんちんを比べてみる。
 ふふ、やっぱりたいして大きさ変わらないや! このこと言ったら「優君」泣いちゃうかな? だって中三と年長さんじゃ本当なら比べようがないはずだもんね。
 だけどあたしはこの事はまだ言わない事にした。
 だって、もっと面白い事考えちゃったんだもん。
「じゃあ、優ちゃんこれを着てね」
 そう言って千尋先輩が取り出したのは低学年の女の子が着るようなセパレートタイプの水着だった。
「そ、そんなの嫌だよ……」
 たじろぐ「優君」。そりゃそうだ、中三の男子がこんな水着を平気で着れるわけがない。
「あっそ、じゃあ着なくていいよ」
 意外な千尋先輩の言葉に、あたしだけじゃなくてみんなの視線が千尋先輩に集まる。
「でも、他の水着なんてないから優ちゃんは裸んぼのままね」
 唖然とする「優君」をよそに千尋先輩は水着を片付ける。
 そして「麻衣ちゃんと真冬ちゃん、優ちゃんを連れて先にプールサイドに行っててよ。もちろん迷子にならないように手を繋いでね」と、軽くウィンクをした。
「ハイ先輩! さっ優君行こうか」
 あたしたちは先輩に元気に返事をすると、あたしが「優君」の右手、真冬ちゃんが左手をつかんでプールサイドに向かって歩き始める。